2006年 11月 30日

・・ マーリオ・リゴーニ・ステルンの世界 ・ Mario Rigoni Stern ・・

   今日はイタリア人作家 マーリオ・リゴーニ・ステルンのご紹介です。
   私はつい先日まで彼の作品を読んだ事がありませんでした。
   そういう名の作家が、このヴェネトの北アジアーゴ・Asiago
   住んでいるという事は、この初夏に、アルプス兵の全国集会が
   アジアーゴで開かれた時メルマガに書き、
   読者のお一人からメールを頂き知っていました。  
   それがこの11月に彼の本を贈って頂き、読むチャンス
   そしてまたTVのニュースでも何度か出会うチャンスが、
   突然にやって来ました!
   今日の写真は全てTVのニュースからです。 ピンアマはご勘弁を。 


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    ◆マーリオ・リゴーニ・ステルン

     夜のヴェネト州のニュースを見ていた時、「マーリオ・リゴーニ
     ステルンがアジアーゴを下り、マロスティカで自作を朗読する
     というニュースがありました。  
     なんとなくボ~ッと見ていて途中で!!と気がつき、写真を撮りました。
     そして以前彼のニュースを教えてくれ、彼の作品に大変感動した、
     と書いて下さった方に送りました。  
     その時は、単に「彼を見ましたよ」という位の軽い気持ちだったのです。 
     作品を読んだ事がありませんでしたので。



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    ◆自作の朗読会

     「アジアーゴを下る」というニュースの表現は、
     アジアーゴがアルプスの麓の、しかもオーストリアとの国境に近い
     事を示しているのですが、マロスティカの市の要請で、
     彼の「レッテレ・ダモーレ・愛の手紙」という、
     自然への賛歌を書いた作品を、子供達に読んで聞かせた
     というニュースだったのです。  
     マロスティカは、バッサーノ・デル・グラッパの西にあり、
     2年毎に生きた人間が駒になる、チェスの試合でも有名な、
     市壁で囲まれた古い歴史ある町です。



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    ◆届いた本

     上の2枚ともう1枚の彼の写真を送った所、大変に喜んで下さった様で、
     なんと、ステルンの最新作の本を送ってくださいました!!
     まさに海老で鯛を釣った感じで、恐縮しましたが、
     これが素晴らしい作品でした。  
     既に彼の作品は日本では「雪の中の軍曹」「テンレの物語」
     などが出版されているようで、お読みの方もたくさんおいでと思います。
     この「雷鳥の森」は日本での出版は最新ですが、
     作品自体は40年前と解説にあります。  
     「戦争の記憶、森の静寂、野生の動物。 簡潔で力強い文体によるこの物語は
     今日の世界から失われつつある人生の深さと豊かさを描く。」と帯にあり、
     まさに、胸の奥を突かれる感覚を持ちました。



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    ◆アジアーゴの町  1

     彼の住むアジアーゴの町はヴェネトの北奥、ヴェネツィアからは北西に
     直線距離で85キロほどで、ヴィチェンツァ県になります。 
     美味しい「アジアーゴ」というチーズも有名ですが、
     ここはまたアルプス兵(山岳兵)が最初に結成された場所でもあるのです。  
     黒い羽が一本チロルハットについたアルプス兵は、
     第1次大戦では、オーストリアからの独立を果たす原動力となり、
     また今現在もイラクに派遣され、働いています。

     ここからの写真は、また別の日に放送された、
     彼のインターヴューの様子と共に映ったアジアーゴの町の様子です。  
     これは、町のドゥオモ。
 


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    ◆アジアーゴの町  2

     こちらは、町の中心広場にドゥオモの横にある市役所。
     建物群が比較的新しいのは、戦争で大変な破壊を受けたからだそうです。
     2度の大戦を経験し、この辺り、アジアーゴの奥の山の中には
     現在でも当時の塹壕が残されているそうで、
     その写真を見せてもらった事もあります。



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    ◆カステルフランコの町の劇場

     これはまた別の日のニュースから。  
     カステルフランコの町で開かれた児童向け文学の授賞式に、
     その審査員長としてステルンが出席していたのです。

     これはその劇場ですが、小さいながらも大変美しいのでご覧下さい。 
     横一列に椅子が10ほど並ぶ、小さいけれど素敵な劇場が
     イタリアにはあちこちにあるようで、
     この町はまた、画家ジョルジョーネの生まれた町でもあります。

 

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    ◆ステルン  

     この日、審査員長で出席のステルン。 今年85歳。
     出席していた子供達にせがまれてサインをしている様子。



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    ◆アルプス兵の帽子

     これは彼の家の壁にかかる、アルプス兵の帽子。
     既にあちこちが破れていますが、
     この帽子をかぶって彼は戦争に行き、ロシアから敗走、
     そしてオーストリアの捕虜収容所からの脱出に、
     共にあった帽子なのでしょう。 
     「あの年、1945年に、生き残った者たちが帰ってきた。 
     あたかも秋の夕暮れに羊が、牛が、山羊が、家畜小屋へと群れをなして
     あるいは一頭で帰ってくるように
     ドイツから、ロシアから、フランスから、バルカン諸国から
     戦争が連れ去り、生かしておいた者たちが帰ってきた。 
     ・・・わたしはオーストリアから徒歩でたどり着いた。 
     おりしも山は春だった。」
     『オーストラリアからの手紙』より



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    ◆アジアーゴの風景  1

     アルプスの麓に広がるアジアーゴの平野の様子。  
     奥にひときわ大きく白い四角に見えるものは、戦没者の慰霊碑。
     ヴェネト一帯からフリウリにかけて、第1次大戦中は大激戦地で、
     このアジアーゴからアルプスにかけても大変な戦死者が出ました。
     日本での戦没者への対応と、かなりの違いを感じます。



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    ◆アジアーゴの風景  2

     「いくつもの季節が過ぎた。渡り鳥たちは去ってはまた戻ってきた
     山ではモミがゆっくりと育っていった。 
     ・・・世界ではさまざまな事が起こった。 
     ・・・だが大地の上では、同じことが変わることなくくりかえされている。 
     日が昇り、日が沈み、穀物が実り、雪が降る
     森のそばの小さな家の中も相変わらずだ。 
     冬は木の桶を作り、夏は大地を耕し、木を伐リ、秋は猟に出る。 
     ずっとずっと昔と同じように
     これから先もずっとずっと変わることなく。」  
     『アルバとフランコ』より



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    ◆インタヴューの様子  1

     ヴェネトの夜のニュース特集で、彼のインタヴューがあったようで、
     私が見たのはその要約編です。 
     85歳とはいえ、大変お元気そうで、
     今世紀になってから既に3冊の本が出版されたとか。  
 


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    ◆インタヴューの様子  2

     「犬に泣くことができるとしたら、なおも食い下がりながら
     フランコは泣いていた、と私は思う。 
     彼が立ち止まった場所には脚の傷の赤い血の跡が残り
     草の葉や森の低い枝は、涎で濡れていた。  
     ・・・ピエーロはウサギを切り開いた。 心臓と肝臓を取り出した。 
     フランコの傍らに膝をつき、まだ生暖かい心臓と肝臓を切って
     切れ端を少しずつ口に入れてやった
     頭を撫でてから、黙ってハンカチで犬の目を拭き、脚の血を拭った。 
     胸の奥底から何かが、口では言えない何かが
     人間に対してさえめったに抱くことのない想いが、こみ上げてくるのを感じた。」
     『アルバとフランコ』より

     朝から日暮れまで、大ウサギを追いかけ、
     遂にしとめる猟犬を描いた一節。  
     衒いの無い、すっと心にしみ込んでくる・・。
     動物との関わりに、胸が痛くなり涙がこぼれました。


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    ◆山小屋風のお家

     如何にも、雪深い土地のお家ですね。
     「ある晴れた冬の午後のことだった。 
     暖炉の中でブナが赤々と燃え、冷気がガラスの表面に幻想的な模様を描き
     そのアラベスクを透かして
     すっぽりと雪をかぶった森と、岩場に降り注ぐ陽の光が見えた。」
     『星月夜のキツネたち』より



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    ◆書斎の様子

     「わが友はビールの入った桶を手に戻って来た。 
     その後、世界のあちこちを巡ってビールを飲んだけれど
     これにまさるものは誓ってなかったし、残念ながらこれからもないだろう。 
     ・・・ 列車が止まっているあいだ、彼もとどまった。 
     わたしは桶に口をつけて彼のビールをあおり
     彼はわたしの煙草を吸いつづけた。 
     ポーランドのこと、ドイツ兵のこと、自分の家族のこと
     どのようにしてビール作りに成功したか
     食料不足と飢えについて
     鞭打たれながら働くユダヤ人たちの存在について
     彼は語って聞かせた。」  
     『ポーランドでの出会い』より



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    ◆書斎での彼

     「だがこの夜、ひとり眠らぬ者がいた。 
     ・・・生まれて初めて、貧しい者たちの運命に
     貧しい者たちに殺し合う事を強いる戦争というものに
     想いをめぐらせ、自問した
     『この汽車に乗っているおれたちのなかで、帰れるのはだれだろう。 
     何人の同郷の人をおれたちは殺す事になるのだろう。 そして、なんのために
     同じ世界に生きているわれわれは、だれもがみな同郷の人なのに。」
     『ポーランドでの出会い』より

     多分これが、彼自身の世界の出発点なのでしょう。
 

    ***






by italiashiho2 | 2006-11-30 06:26 | ・映画絵画文学 Film Arte Le | Comments(2)
Commented by mitsu at 2017-03-01 21:49 x
shinkaiさん、マーリオ・リゴー二・ステルンの本、早速図書館で借りて読みましたが、修飾のない簡潔な文章から伝わる世界は豊かで大好きになりました。ご紹介ほんとにありがとうございました。「雪の中の軍曹」は残りあと少しですが、感銘深く一気に読み進みました。
Commented by italiashiho2 at 2017-03-02 01:11
★mitsuさん、こんにちは! コメント有難うございます。

わぁ、古い拙い記事を読んで下さったのですね。 
でも、マリーオ・リゴーニ・ステルンの事を書いていて、それで彼の本を読んで下さったのは、そして好きになって下さったのはとても嬉しいです!!

素晴らしいでしょう、彼の描く世界と文章は?! 
こういう骨太で率直でそして深い世界、というのはなかなか見つかりませんよね。

残念ながら既にもう亡くなって、10年近いでしょうか、
亡くなって後「内輪のお葬式が済んだのが発表された」という形で、ニュースが有りました。

もうじきご出発ではないですか? 
体調にお気をつけられて、どうぞ良いご旅行を!!




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